この記事の要約
ヒットの理由
・日常性のリアルな表現: 地下通路の描写が身近で、プレイヤーに強い没入感を与える。
・異変のランダム性: 予測不能な要素が、ギャンブルのような中毒性を生み出す。
・フロー状態を生み出す仕組み:シンプルな操作性と異変を見つけるというゲーム性は高い集中状態を容易に生み出す。
人間心理との関連性
・終わらない思考: ゲーム内の「異変を探す」行為は、人間が常に何かしらの問題や課題を探し求める思考過程に重ねられる。
・完璧主義: ゲームではすべての「異変」を見つけなければクリアできないように、人間も完璧な状態を目指しがちである。
・現実との類似性: ゲームのランダムな「異変」は、現実生活における予期せぬ出来事と類似する。
心の健康との関係性
・思考の連鎖: ゲームの無限ループは、思考の沼に陥る人間の状態を表している。そこから抜け出すことは心の健康向上にも大きく寄与する。
・出口の多様性: 現実では、ゲームのように一つの「出口」に固執する必要はなく、様々な方法で思考のループから抜け出せる。
・解決策: カウンセリングやマインドフルネスは、思考の連鎖に気付き、そこから抜け出すための有効な手段となる。
・その一歩が人生を変える:思考の連鎖に気づき、新たな一歩を踏み出すことで人生は形を変えていく。それはどんな瞬間からでも可能である。
はじめに
8番出口というゲームが大ヒットした今年。
流行語にも選ばれた本作は、「8番ライク」という新たなゲームのジャンルも確立した。
8番出口とは、地下鉄の通路に出現する「異変」を見つけながら8番出口を目指すというものだ。
このゲームがヒットした理由。それはこのゲームが人間の思考について非常に的確に表現しているからではないかと感じている。
8番出口がヒットした理由
日常性のリアルな表現
8番出口のゲーム画面を見て驚いたのは、どこかで見たことがあるという既視感だった。
昨今のゲームは非常に画質のクオリティが上がり、実写と見間違うほどの描画が行われていることもある。
8番出口も例に漏れず、高い描画力で誰もが通ったことがあるような地下通路をリアルに再現している。
こうしたリアルな表現は没入感にもつながり、人気の理由となる
異変のランダム性
本作は異変を探すことを目的としている。
異変があったら引き返し、異変が無ければ進んで8番出口を目指す。
ただそれだけのシンプルさなのだが、そこに引き込まれていく理由は、異変がランダムで出現するという部分にあるのではないか。
こうしたランダム要素はギャンブルにも通じ、人をそこにハマりやすくさせる。
自然に集中できる仕組み
異変を見つけるというシンプルなゲーム性、そして簡単な操作。それは誰でもゲームに没入しやすくさせる仕組みであるといえる。
さらに、ランダムでやってくる異変を見落とさずに進んでいくということも集中が必要だ。
こうした集中が必要なシステムを構築することで、プレイヤーの「フロー状態」を生み出しているのではないだろうか。
「フロー」とは心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念であり、目標が明確で、迅速なフィードバックがあり、スキルとチャレンジのバランスが取れた活動をしている時の集中力の高まりや自我の感覚の消失と世界との一体感を表した状態とされている。
スポーツ選手などが高い集中力を発揮しパフォーマンスを行う場面などをイメージしてもらうと理解しやすいだろう。
そうしたフローに我々がゲームを通して簡単に到達できる。それが8番出口の魅力である。
8番出口に表現された人間心理
終わらない思考
出口を目指し異変を探す。
これは人間の思考にとても似ている。
私達は普段から思考を繰り返し、異変を見つけてはそこへの対処を考えている。
その思考はときに有用だが、ときに我々を苦しめる原因となる。
我々を苦しめる「異変」を見つけるという思考を、8番出口は見事に再現している。
完璧主義
このゲームでは異変を一つでも見逃したら最初から再スタートとなる。
我々の思考も一つでも抜けがあると同じ思考を繰り返してしまい、いつまでもその思考から抜け出すことができない。
そうしていつまでも思考の闇に囚われてしまう。
ゲームでは8番出口だが、人間の思考は100番出口くらいあるかもしれない。
それくらい完璧な思考をしないと我々は満足できない。
そしてそれはほとんどの場合、満たされることはない。
ランダム要素は現実でも同じ
異変がランダムで生じる現象は現実世界とも重なる。
我々は日々生きているが、すべてが順調なんてことはありえない。
予測できない事態が毎日起きてくる。
それはゲームの決まった異変というものではなく、さらに複雑なものであるが、少なくともこのランダム性は日々の生活との類似が大きいといえるだろう。
心の健康を保つには
終わらない思考に気づき抜け出す
8番出口は我々に心の健康を保つ方法も教えてくれる。
先にも述べたように、異変を見つけることは我々の思考と似ている。そしてそれはほとんどの場合、我々を精神的な疲弊へと結びつけるものだ。
人間の場合は目指す出口は8番出口どころではなく、100番出口やそれ以上かもしれない。
ゲームと同じで一つでも異変を見落とすと最初からやり直しだ。そのような状況ではほとんどの人はゴールにはたどり着けない。
終わらない思考を繰り返していること、まずはそれに気がつくことが大切である。
どうやってそれに気づくのか、そのその気づきをもたらしてくれるものがカウンセリングやマインドフルネスの実践ではないかと私は考える。
マインドフルネスの具体的な実践方法は当HPでもいくつか紹介しているので、取り入れやすいものを選んでぜひ日々の生活で実践をしていってほしい。
そして、もし一人ではそれが難しければ。私たちのような専門家に頼るのも一つの方法である。
繰り返される思考に気づくことができれば、そこから抜け出すことも可能である。
出口は一つではない
もうひとつ、8番出口が教えてくれることがある。
それは、「出口は一つではない」ということだ。
ゲームでは8番出口からしか降りられない。
このゲームの主人公はなぜ8番出口を目指すのだろうか。その理由はゲーム内では明かされていない。
そのミステリアスさも本作の魅力の一つではあるが、現実はどうだろうか。
よく考えれば、出口は一つではない。
ゲーム内でも出口0から始まり、1~7までの出口が存在しているはずだ。
現実世界ならばそのそれぞれの出口から出ても良い。
目的地には多少遠回りになるかもしれないが、一歩一歩を確実に歩む方が、繰り返しの思考にとらわれるよりも早く目的地にたどり着ける。
思考の連鎖に陥っても、現実世界に生きる我々はそれぞれの出口から外に出ることができる。
現実の世界は時に厳しいようにも思えるが、私たちに無限の可能性を与えてくれてもいる。
その可能性を活かして、自由な出口から外に踏み出す。
それが一人一人の人生を形作っていくのだろう。
その一歩はどんな瞬間からでも踏み出すことができる。
まとめ
8番出口は製作者がそれを意図していたかは別として、我々の人生に多くの気づきをもたらしてくれる素晴らしいゲームである。
そのシンプルなゲーム性を通して、人生を充実させる生き方まで教えてくれる。
もし、このゲームをプレイする機会があれば、人生との共通点を深く味わってプレイしてみることをお勧めしたい。
参考文献
M.チクセントミハイ(著)大森弘(監訳) フロー体験入門 楽しみと創造の心理学 世界思想社
コメント