この記事の要約
- 自己紹介は、初対面の人とコミュニケーションを円滑にするために重要な行為です。
- 自己紹介は、心理学的には自己開示や自己呈示という概念と関連しています。
- 自己紹介には、自己理解を深める、相手に自分を知ってもらう、自分のイメージを相手に伝える、コミュニケーションを促進する、自尊感情を高めるなどの効果があります。
- 自己紹介は、ソーシャルスキルとして重要であり、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)にも含まれることがあります。
- 人は、自分のことを誰かに知ってほしい、相手のことを知りたいという欲求を持っています。
- 自己紹介を通して自己理解と受容を深めることは、心理士にとっても重要なことです。
自己紹介について考える
私たちは普段、初対面の人と交流するときには自己紹介をする。
自然すぎてあまり深堀りすることもないかもしれないが、不思議なことでもある。
いきなり本題に入った方が効率が良いのになぜ、自己紹介を行うのか。
それは自己紹介がある方がコミュニケーションが円滑になるからだ。
自己紹介が不要な世界は生成AIの世界だろう。
適切なプロンプトがあれば、それに沿った返答をしてくれる。
自己紹介があるということは、人間として生きているという証明でもあるかもしれない。
今回はそんな自己紹介に関する心理学理論を紹介したい。
自己紹介の心理学
自己紹介に一番近い心理学の概念は「自己開示」だろう。
これは文字通り、自己に関する開示を他者に向けて行うことだ。
自身の表面的な情報や深い部分にある思いまで、この自己開示という言葉が使われる。
この自己開示の中で、相手に特定のイメージを認識させるために行われる調整を「自己呈示」といい、これも普段自己紹介を行う中では意識的、無意識的に行っているものになるだろう。
「私は○○が得意です」「私は○○が苦手です」「私は○○ができます」というのは自己呈示となる。
基本的には何も意識しなくても私たちはコミュニケーションの中で自己紹介を行っている。
自己紹介は基本的なソーシャルスキルであり、自己紹介の質は他者に与える印象に影響し、その後のコミュニケーションも左右することは容易に想像できることだろう。
そのため、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)と呼ばれる心理教育的介入には自己紹介のスキルが入っていることも珍しくない。
なぜ自己紹介をするのか
それでは私たちはなぜ、自己紹介を行うのだろうか。
それは自己紹介を行うことで我々が意識的、無意識的に得ている効果によって説明ができる。
自己理解が深まる
自己紹介をすることで自己の理解が深まる。
これはとても自然なことで、他者に自分のことを伝えるときには、自分のことを客観的に見つめる必要がある。
そして、自己紹介をするとそれに対してのフィードバックが得られることもある。
それにより、自身について再確認したり、他者との比較が行われ、自己理解がさらに深まっていく。
自分のことを知ってもらえる、認識してもらえる
自己紹介をする場合。たいていの場合は自分一人がしゃべり、他の人が聞いているという状況があるだろう。
そういった場は自分が話したことを聴いてくれ、理解、認識してもらえるという経験を作り出す。
自己紹介が無事に聴き入れられるということで、「受け入れてもらえる」という安心感にも繋がっていく。
自分のイメージを相手に伝えられる(自己呈示)
先にも述べたが、自己紹介には自分のイメージを相手に示す機能がある。
どのような自分を相手に知ってほしいかで、伝える内容を調整することで他者の自分に対するイメージをある程度はコントロールできる。
私の場合は「公認心理師・臨床心理士」「マインドフルネス」「馬」などのキーワードを用いることで、私なりのキャラクター作りを行っている。
コミュニケーションが促進される
自己紹介を行う場面では通常、相手からも何かしらの自己開示があることが一般的である。
これを返報性とも言ったりするが、自己開示にはそれを受けた側の自己開示を促進する効果があることが知られている。
お互いが自己開示をする。そうなると、コミュニケーションが始まっていく。
自己紹介が発端となり、コミュニケーションが深まっていく。
自己紹介はコミュニケーションの重要な土台として機能する。
自己紹介をして自尊感情があがる
自己紹介を通して自己への理解を深め、それが受け入れられるという体験をすることは、「自分がここにいてもいい」という認識を生み出す。
それは自分という存在が、今の自分のままでここに生きていても良いという満足感や自己受容にも繋がり、自尊感情を向上させる効果もある。
みんな自己紹介が大好き
私が小学校低学年のころ。おませな女子たちは自分や他者のプロフィールを集められるノート(プロフィール帳と呼ぶらしい)を持っていて、たくさんの人のプロフィールを収集していた。
今もそれがあるのかは分からないが、ある程度の社会性が発達してきたら、我々は「自分のことを誰かに知ってほしい」、「相手のことを知りたい」という欲求を持つということだろう。
コミュニケーションの中で自分と相手の理解が深まっていく。
そして、お互いに知ってもらえるということは安心にも繋がる。
子どものころから私たちは自己紹介が大好きだ。
大好きだから止められなくなることもある
あなたの身の回りに、自分語りが止まらなくなる人はいないだろうか。
そういう人は、自尊感情が低いのかもしれない。または、安心を感じられていない人なのかもしれない。
一生懸命自分のことを話さないと自分という存在を理解できないのかもしれない。
どうしても自尊感情や安心、自己理解が不足しているから、たくさん喋って穴埋めをしていなければいけない。
専門家はそういう人が自分の課題にどう向き合うかを一緒に考えていくのだが、普通に生きる人はそういう人と関わるとかなりのエネルギーを消費する。
私もプライベートでそういう人と関わるのは正直気が引ける。
身近にそういう人がいて、自分が疲れる原因になっているのであれば、無理なく適度に距離を取り、
「ああ、あの人も苦しんでいるんだな」
そう思うだけで十分だ。
それでも自己紹介は大事
ここまで自己紹介の持つ様々な側面について解説をしてきた。
自己紹介はコミュニケーションの土台となる大切なスキルだ。
自己紹介を行うことで自分を知り相手を受け入れることができる。
それは心理士も一緒である。
我々の行うコミュニケーションの第一歩として自己紹介はとても大切なものといえるだろう。
私の自己紹介はこちら↓
参考文献
安藤清志. (1986). 対人関係における自己開示の機能. 東京女子大学紀要論集, 36(2), 167-199.
足立文代, & 佐田久真貴. (2015). ソーシャルスキルトレーニング実施が学級適応感や自尊感情に及ぼす効果について. 兵庫教育大学学校教育学研究, 28, 45-53.
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