光文社新書から出版されている書籍「仕事で「一皮むける」~関経連「一皮むけた経験」に学ぶ~」を読んだ。
20年以上前に出版された書籍で、具体的なエピソードを交えて、仕事で「一皮むける」ことについて解説をしている。
登場するエピソードはいかにも昭和の企業人という感じで長時間労働や激しい団体交渉などを美徳とするようなものが語られており、現代からすると違和感があるのだが、仕事を通しての成長や働きがいの高め方という観点からみると、今でも色あせない知見を提供してくれる書籍である。
今回はこの書籍の内容で、特に私が印象深く感じたことを中心に書いていきたい。
「一皮むける経験」とは
本の中で語られる「一皮むける経験」とは、質的な「変態」であり、サナギから蝶への変化のように、自己が大きく成長する経験を指す。
そして、それは様々な節目となる経験を通して得られる。たとえば、新規プロジェクトへの関与や意図しない異動、さらにはトラブルの処理など困難な状況に直面し、そこから逃げずに責任や使命を自覚し行動することで、こういった一皮むける経験が得られていく。
サナギから蝶になるとき
サナギから蝶へと聞くと、私には忘れられないエピソードがある。
以前、私が住んでいたアパートの玄関の前で蝶が羽化していた。
外出先から帰宅すると、その蝶はもう姿はなかったのだが、蝶がいた周囲に赤い液体が付着していることに気が付いた。
これは蛹便(ようべん)というものであるようだ。
さなぎから羽化するときに排出される体液。チョウなどの完全変態をする昆虫の一部にみられる。折りたたまれた羽を展開するとき、翅脈に体液を圧送するが、その余分な体液を便として排出するもの。羽化液。
デジタル大辞泉(小学館)
この蛹便は一般的には赤いものであるようだが、血液ではないとのこと。
ただ、見た目的にはやはり「痛そう」な印象を残す色である。やはり、サナギから飛び立つにはこうした苦労が必要なのだろうとその時感じたのだった。
また、蛹便は余分なものを排泄するという意味もある。
一皮むけるという体験は、経験によって身についたものから余分なものを排泄することで得られるものなのかもしれない。
キャリアと成長
トランジションモデルから考える
トランジションモデルはW.ブリッジズが提唱した、人生における転機をモデル化した理論である。
このモデルは、終焉(何かが終わる時期)→中立圏(混乱や苦悩の時期)→開始(新しい始まりの時期)の3段階で説明される。
一皮むける経験とは、仕事に関するトランジションの結果としても説明できる。
先のサナギの例にもあるように、まずは何かが終わるという終焉の体験が変革には必要だ(サナギは幼虫時代の終わりを意味する)。そこから、サナギという中立圏を経て、蝶になり新しい段階が始まっていく。
キャリアの中でのトランジションは、1回で終結するものではなく、それが再び新たなトランジションを生み出していくというサイクルがあるのが特徴である。
トランジションを通して、私たちは「一皮むけた」経験を重ねていくことができる。
3つの問い
E.シャインは、キャリアを考える上で3つの問いを考えることが大切であることを説いた。
3つの問いとは次のようなものである
・自分は何が得意か
・自分はいったい何をやりたいのか
・どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会に役立っていると実感できるのか
これらの問いは、自己理解を深め、キャリアの方向性を定める上で非常に重要であるとされている。
また、これらの問いを深めるにあたり、キャリア初期の夢を振り返ることも重要となる。
適応について|内的適応と外的適応
私たちは働くことを通して、様々な「適応」をしていく。
その適応は自身の内面への適応であることもあれば、社会や会社からの要請への適応という外的な適応という側面もある。
そして、内的適応と外的適応の両方の声を聞くことが、良いキャリア形成に繋がっていく。
内面と外面、どちらかの適応に偏りすぎていてもキャリアは築けない。
特に、「過剰適応は適応力を阻害する」ということも本の中では示されていた。
私たちにとっても、そして、働く職場にとっても、適度に刺激やストレスがあるほうがいい。
適度にチャレンジができるほうがいいということを表しているのだろう。
成長には痛みが伴い、現状に安住しすぎると成長が止まる可能性もある。
この考えは、先に述べたサナギから蝶へという例えにも通ずるものといえる。
組織とリーダーシップ
「エンプロイアビリティ」と「エンプロイメンタビリティ」
エンプロイアビリティ(就業可能性)という言葉がある。
従業員がどの程度の能力を持ち、他社でも通用するような能力をどれくらい持っているかということを表している。
最近の言葉でいうと、自身の「市場価値」と言ってもいいかもしれない。
しかし、エンプロイアビリティは従業員のみに焦点が当たっている。
会社側、管理者側は何も努力が必要ではないか、というとそうではない。
「魅力的な職場を提供し続けることができているか」という会社側の力を、エンプロイメンタビリティという。
このエンプロイメンタビリティは、仕事で「一皮むけた」経験のあるリーダーや幹部がどれくらいその組織にいるかで測ることが可能である。
従業員は企業に自身の能力を提供する。そして組織は従業員に対して「一皮むける」体験とその土台を提供するのだ。
リーダーと孤独
リーダーは孤独である。
自分の信じた道を歩むのだが、周りからは疑われたり、陰口も言われたりする。
それでもリーダーは自分の筋を通していく力を持っていなければならない。
部下の言葉や思いを無視しろというわけではない。
しかし、時には自分の理念を貫くために、孤独な戦いもする覚悟がリーダーには求められる。
自分の感覚や感動の源泉を信じ、たった一人でも自分が信じた道を行く。人の100倍も不安に怯え、困難に耐えながら、苦痛を糧として仕事をする。それが僕の言う「たった一人の孤独な熱狂」 だ。たった一人で孤独に熱狂しながら、僕は無名を有名に、マイナーをメジャーに変えて結果を出して来た。
たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉 見城徹
リーダーの力の源とは
時として孤独な戦いを強いられるリーダーの力の源泉はどこにあるのか。
それは、自分自身が仕事に惚れ込み、徹底的に取り組む姿勢にある。
これをよく表しているのが、「伝説の経営者」とも呼ばれたゼネラル・エレクトリック社元CEOジャック・ウェルチ氏のリーダシップにおける「四つのE」だ。
①「Energy」リーダーシップを取るひとにエネルギーがなければならないこと。
②「Energize」そのエネルギーでみんなを元気にできること。
③「Edge」尖っているとか、切れるということ(具体的には、情報不足でもタイミングをとらえ決断できることや、あるアクションをとればだれかががっかりすると知っていても、そういうタフなアクションがとれること)。
④「Execution」決断したこと、アクションをとり始めたことを最後までとことんやり通し、実施すること。
「4つのE」はリーダー自身のエネルギーに重点が置かれている。
そのエネルギーは周囲にも影響を及ぼすものであり、さらには燃え続けるという継続性も大切な要素となる。
そして、3つ目のEdgeは先述の孤独を背負う覚悟とも重なるだろう。
「一皮むけた経験」を語ることと若手の成長
人材教育に悩むのはどの業界、企業でも同じだろう。
その人材教育、特に若手や中堅の成長にとって大切なことは「一皮むけた経験」をリーダーや幹部が語ることである。
これは、過去の栄光を武勇伝のように話すということではない。
自身の仕事を振り返り、今も続く根底にある思想や価値観を伝えてこそ、この熱意は周囲に伝わるものとなるのだろう。
そして、それを聞いた部下は、エネルギーを受け取ることで人生の指針やエンパワーメントを得るといった体験に繋がっていく。
そして、良好なリーダーシップは世代間に引き継がれていき、永遠に燃え続けていくことになる。
常に一皮むけ続ける|キャリアを通して成長し続ける
成長するのは子どもだけではない。
大人になっても、働きだしても、そのキャリアの中での様々な経験が私たちを成長させ「一皮むける」体験を作ってくれる。
そして、それは一度きりのことではなく、何回も繰り返されるものである。
それは終わりのない成長でもある。
終わりのない成長を支えるのは、大いなる使命感に裏付けされた思想や価値観である。
その思いは周囲に伝わり、世代を超えていくものとなっていく。
日々成長し続けることで、年輪が増えていくように太くなった人生は、伝説として語り継がれるようなものになるかもしれない。
日々成長し続けることで、
頑張ったといえる未来は終わりのない成長の先に待っている。
引用・参考文献
金井 壽宏(著)仕事で「一皮むける」~関経連「一皮むけた経験」に学ぶ~ 光文社新書
見城 徹(著)たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉 双葉社
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