気づけば2024年も終わりが近づき、忙しい年末がやってきた。
気候の変化も相まって、気づかないうちに疲労が溜まっている人もいるかもしれない。
マインドフルネスの実践は、疲労感への気づきと「無理をしない」というメッセージを私たちに送ってくれることがある。
「疲れたら無理をしない」その考えを支える、マインドフルネスの思想を紹介したいと思う。
マインドフルネスがもたらす「疲れ」という気づき
マインドフルネスは私たちの心身の状態への気づきをもたらしてくれる。
その気づきを通して私たちは自分自身の頑張りや、心身の疲労についての認識を深める。
それは心身を壊す前にそれを事前に予防することにも繋がっていく。
体の疲れに気づく
マインドフルネス瞑想で体に意識を向ける。
どこかに疲れが溜まっていることに気づくことがある。
それは日常の中では気づくことができないものもあるかもしれない。
私たちは日々の中で、身体からのメッセージに気づかずに生きていることがある。
ジョン・カバットジンは著書の中でこう記している。
あなたのほうでメッセージを受けとる準備ができていなかったとしても、体のほうは一生懸命メッセージを送ってきます。
J・カバットジン(著)春木豊(訳)マインドフルネスストレス低減法
心の疲れに気づく
心の疲れに気づくこと、それには、日常的に自分がどのような反応をしているかに気づくことが役に立つ。
何気なくスマホを眺めていることは無いだろうか、ため息をついていないだろうか、衝動買いや何かをたくさん食べたいなどの誘惑が襲ってきてはいないだろうか。
そうした、自分の心に生じる反応は、心の疲れを表しているといえる。
心の疲れは自分の思考によって気づける
心の疲れは思考へのとらわれという形でも生じる。
富や名声、肩書といったものに執着していないだろうか。
他者の評価や過去の栄光、未来への過剰な期待というものに心が奪われていないだろうか。
そうしたものに必要以上に心が揺さぶられているときは、自分の心が保てなくなるほど、疲労を感じている状態である。
心の疲れはDMNの仕業
こうした心の疲れは、私たちの自動的なストレスへの反応を生じさせるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の仕業であるといえる。
このDMNが活性化している状態は抑うつや不安の高まりとも関係があることが、脳科学において、fMRIを用いた研究でも明らかになっている(Sheline et al.2010)。
DMNが過剰に活性化した状態が続くと脳に慢性的な疲労状態が生じ、うつや不安障害といった精神疾患に繋がる。
DMNは自動的な反応でそれを止めることはできない。だが、その働きを意識的に緩めることは可能である。それがマインドフルネスの実践となる。
マインドフルネスがDMNの働きを弱めることは科学的にも証明されている。
DMNは人間の持っている根本的な性質なので、それを止めることはできない。ただ、その影響を小さくすることは可能である。
意図的に今と向き合う
今この瞬間を感じ、DMNを緩めることはストレス解消や疲労回復にも繋がっていく。
マインドフルネスの実践はどのようにしてそれらの効果に繋がっていくのだろうか。
それを考えるときに、マインドフルネスではない状態から考えると理解がしやすいと私は考えている。
いかに、それぞれの要素について解説していきたい。
マインドフルネスの定義とそれではない状態
マインドフルネスの定義は「今この瞬間に意図的に価値判断せずに特定の対象に注意を向けること」とされる。
この逆の状態とは「過去や未来に無自覚に価値判断をしながら注意散漫な状態で過ごす」となるだろうか。
このマインドフルネスではない状態は私たちの疲労と深くつながっている。
過去や未来にとらわれると疲れる
私たちの思考は時間を行き来することができる。それにより、過去や未来に思考を広げることができ、その能力は私たちの生活の発展を支えてきた。
しかし、時として、今に足がついていないほど、過去や未来にとらわれてしまうことが私たちにはある。
そのような過去や未来への過度なとらわれは私たちの精神的な疲労にもつながる。
自動的な思考に支配されると疲れる
DMNの存在で、私たちは容易に無自覚な思考や行動に支配されてしまう。
そして、その無自覚な思考や行動はしらずしらずのうちに私たちを負のループへと誘い込み、疲労を蓄積させる。
DMNは自分のキャパシティを超えても動き続ける。その活動は際限なく存在しない正解を探そうとし、私自身をいじめる。
また、私たちは自動的に瞬時に物事を価値判断をするクセを持っている。これも、日常生活では役立つこともあるのだが、やはり、この自動的な思考が自分自身の首を絞めることもある。
価値判断から生じた先入観も同様である。物事を見る視点が偏っていることは、周囲にも悪い影響を与えるだけでなく、結局は自分自身も苦しめる結果に繋がる。
自分は無いことを知る
自分自身にとらわれることも苦しみの原因となる。
それは肩書や地位、過去の栄光といったものへの執着や、終わらない自分探し、幸せ探しだったりするかもしれない。
不思議と疲労が蓄積すると、こういう自分自身への執着が生じやすい。
そして、不毛な戦いを強いられて、多くの場合は自滅してしまう。
マインドフルネスの実践でわかることは「無常」である。そして、固定化された自分は無いということも知ることができる。
スリランカ上座仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老は著書の中でこのような言葉を記している。
自分は一つのシステムです。もちろん他の人たちもそれぞれのシステムであって、このシステム同士が組み合わさって社会ができあがっているのです。そして、この個人というシステムは、日々変わっていくものです。ですから、何か固定したアイデンティティというものが、あらかじめあるわけではないのです。
なぜ皆、個性が見つけられないかといえば、おかしなことをやっているからです。「自分という何か変わらないもの」があると思い込んで、それを探すのは滑稽なことです。いくら自分探しをしたって、自分というものは見つかりません。そんなものは無いからです。
アルボムッレ・スマナサーラ(著)無我の見方:「私」から自由になる生き方
不毛な戦いをして、自ら苦しむ道を選択していることに気づくためには、マインドフルネスの実践を通した気づきがとても有効となる。
疲労から解放される方法
私たちは知らず知らずのうちに自分を追い詰め疲れさせていることがある。
まずはそこへの気づきが重要となると私は考えている。
意図的に今この瞬間に注意を向ける|マインドフルネス実践
マインドフルネスの実践を通して、私たちは自分自身の言動に注意深く気づきを向けることが可能となる。
「今この瞬間に意図的に価値判断をせずに注意を向ける」という基本に忠実な取り組みにより、私たちは気づきを重ねることができるようになる。
自分に優しさを向ける「疲れたら無理をしない」
自分を見つめることで、意識していなかった疲労感に気づくことがあるかもしれない。
私たちの内面からのメッセージは絶えず私たちに訴えかけている。
そのメッセージを受け取ったのならば、無視をせずに応じることが大切だ。
「疲れたなら無理をしない」そう思うためには、自分自身への優しさ(セルフ・コンパッション)も必要かもしれない。
休みたくても、それをネガティブにとらえてしまう自分がいるかもしれない。
しかし、大丈夫。マインドフルネスの実践は、自他への優しさを開発してくれる。
「お互いさま」その精神が培われることで、私たちは安心して自分にも優しさを向けられるようになっていく。
マインドフルネス瞑想のやり方
ここではどんな場面でも短時間で行える瞑想のやり方を紹介したい。
- ご自身の楽な姿勢をとり、呼吸の感覚に意識を向けていきます。
- 鼻を通る空気の感覚、肺に取り込まれていく空気の感覚、呼吸の度に膨らみしぼんでいくお腹の感覚など、最も呼吸を感じやすい場所に集中していきます。
- このとき、ありのままの呼吸を大切にし、無理に呼吸をコントロールする必要はありません。
- もしも注意が別のことにそれてしまったら、優しく今の呼吸の感覚に戻っていきます。
- 注意がそれた自分を責めたり、価値判断をしたりせずにただ淡々と呼吸に戻っていきます。
- その繰り返しがマインドフルな状態となり、「今この瞬間」にいつでも戻ることに繋がります。
- 注意の対象は呼吸だけでなく、体の感覚や、五感で感じられるものでも構いません。数分、数十秒といった、どんなに短時間でも構いません。戻れる場所はいつでも自分の中に存在しています。
成果は求めない
マインドフルネスの効果は広く知られ、多くの学術研究でも実証されている。
しかし、その効果は、追い求めて得られるものでもないということは注意しておかなければならない。
マインドフルネスの実践そのものが、「ただ存在すること」を目指す。
そこは、何かを得ようとか、何かを目指そうという結果への執着から離れた世界である。
そうした執着も離れて、今この瞬間に存在し、自分自身への気づきを深めていくことで、私たちはいつの間にか、手にしたいと思っていたものを手にしている。
瞑想の場合、ゴールに到達するための一番良い方法は、結果を急いでむやみに努力しようとしたりしないで、瞬間瞬間の事柄に注意を集中し、受け入れる、ということなのです。忍耐強く規則正しく取り組んでさえいれば、ゴールはおのずと近づいてきます。そして、おのずと近づいていく力は、あなたの中から生まれてくるのです。
J・カバットジン(著)春木豊(訳)マインドフルネスストレス低減法
ただ今この瞬間に存在する。それだけでいい。
今この瞬間に意識を向け、自分自身のことを客観的に見つめる。
そうすると、普段は気づいていなかった自分自身の苦しさや疲れが見えてくることがある。
それに気が付いたら「無理をしない」ということが大切である。
それが、私たちが持続可能な歩みを進めるために必要なことでもある。
自分の中から発せられるメッセージを大切に生きていくことは、現代人の疲労やストレスへの対処にとって大切なことといえるだろう。
引用文献
Sheline YI, Price JL, Yan Z, Mintun MA. Resting-state functional MRI in depression unmasks increased connectivity between networks via the dorsal nexus. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Jun 15;107(24)
アルボムッレ・スマナサーラ(著)無我の見方:「私」から自由になる生き方 サンガ新書
J・カバットジン(著)春木豊(訳)マインドフルネスストレス低減法 北大路書房
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