この記事の要約
・マインドフルネスの実践は私たちを偏りのない生き方に導いてくれる。
偏りのない生き方によって解放されるもの
・価値判断からの解放: 自己や他者を価値判断せずに受け入れることで安心感が得られ、思いやりの視点が生まれる。
・既存知識からの解放: 先入観を取り除き、好奇心を持って物事に注意を向けることで、新たな気づきが得られる。
・時間的概念からの解放: 過去や未来への思考から解放され、今この瞬間に焦点を当てて生きることで、偏りのない判断ができるようになる。
・社会的地位や外見への執着からの解放: 変化する現実を受け入れることで、より柔軟な考え方を持てるようになる。
偏りのない生き方がもたらしてくれるもの
・精神的健康の向上: 思考のループから抜け出し、客観的な視点を持つことで、不安や恐れを軽減し、脳の変化も確認されている。
・公平な気づき: 価値判断や思考から距離を置くことで、自己評価が客観的になり、本当に意味のあるものを選べるようになる。
・共感性の向上: 偏りのない気づきが自己理解を深め、他者への共感能力を持続可能な形で向上させる。
まとめ
マインドフルネスは思考や価値観の偏りを減らし、日常に新鮮な視点を与えることで心身の健康を支え、自分にも他者にも優しく生きられるようにする。これは平和な世界の構築にも繋がっていく考え方である。
はじめに
マインドフルネスがもたらしてくれるものは、精神的健康にとどまらず、身体的な健康、働きがいや生活の質の向上と多方面に及ぶ。
その本質には、マインドフルネスの「気づき」が生み出す、偏りのない世界がある。
マインドフルネスの実践が教えてくれる偏りのない世界とはどのようなものだろうか。
マインドフルネスの定義
マインドフルネスの定義は「意図的に価値判断をせずに今この瞬間に注意を向けること」である。
これはマインドフルネスを初めて体系的に治療に組み込んだ、マインドフルネスストレス低減法の提唱者であるジョン・カバットジンの言葉である。
この定義からも分かるように、マインドフルネスには価値判断をしないという前提が存在する。この姿勢が、私たちを思考や価値観の偏りから解放してくれることに繋がる。
偏りのない生き方で解放されるもの
マインドフルネスの実践により、私たちは「観察する自己」と呼ばれる、自分自身を客観的に俯瞰する自分の存在を実感することができる。そこでは、思考や価値判断、価値観などから解放された偏りのない世界が実現される。では、具体的にどのようなものから解放されることになるのか概観していきたい。
価値判断からの解放
私達は普段から物事に対して様々な価値判断を行っている。
マインドフルネスはこの価値判断から離れることで、私たちに偏りのない世界を提供してくれる。
自分自身を価値判断せずに受け止めることで、不完全な自分自身も無条件で受け入れられるようになっていく。それは、自己の存在を支えてくれる大きな安心感となる。
また、価値判断から離れることは、目の前に存在する相手や社会に対しても思いやりの視点を与えてくれる。
それは自分に対する優しさを土台として、溢れ出ていくものとして、周囲に感じられるものとなる。
既存知識からの解放
私たちはこれまでの人生の中で様々な知識を身に着け、それを生活の中での判断材料としているが、時にそれは私たちを誤った選択へと導くこともある。
マインドフルネスの実践は、こうした既存知識からも私達を開放することで、先入観のない状態で物事を見ることを可能にしてくれる。
マインドフルネスの実践では、常に今この瞬間を初めて経験するような感じで、好奇心を持って注意を向けていく。
何気なく行っていることにも、普段気づかないような側面があり、こうした普段の生活を気づきの溢れたものにしていくことで、心身の健康は確実に高まっていく。
また、知識や経験から作られたフィルターによって世界を眺めていることにも気が付くことがある。
マインドフルネスにより、既存知識にとらわれないありのままの現実を見られるようになると、目の前の事象の捉え方も大きく変わっていく。
時間的概念からの解放
マインドフルネスの中核的な態度である、「今この瞬間に焦点を当てる」ことは、過去や未来を解放することにつながる。
私達を悩ませているのはほとんどの場合、過去や未来に対する思考である。マインドフルネスの実践を行うことで、この過去や未来の思考を軽減させ、今この瞬間に生きることを促進することは、過去や未来を考えることによって生じるバイアスを減少させ、結果的に今この瞬間に最善の判断をすることにつながる。
今この瞬間に焦点を当てることで、過去への固執や未来への不安からも解放されていく。今だけを見つめることで、私達は曇りない目で目の前の現実と向き合うことができるのだ。
社会的地位や外見への執着からの解放
マインドフルネスの実践を行うことで、私達は社会的な地位や栄誉、そして外見といったものが永続せず常に変わりゆくものであるという真実を知ることができる。
それは無常というブッダの悟りとも通じるもの。
何一つ固定化されたものは無いという真実を私達はなかなか直視することができない。
だが、現実は常に変わりゆく。来年の今日が今と同じということはあり得ない。
常に変わりゆくからこそ、私達はより良い方向にも向かっていける。
無常を知るということは実はとても前向きなことである。
マインドフルネスの実践は悟りを得るための修行であるともいえる。
私達は簡単に悟ることはできない。だが、そこにたどり着くための歩みは進めていくことができる。
偏りのない生き方がもたらしてくれるもの
マインドフルネスを行うことで様々なとらわれや思い込みから解放されることは、私たちの日常生活にも大きな気づきを与え、私達は様々な恩恵を得ることになる。
負の思考のループから抜け出す:精神的健康の向上
マインドフルネスの実践により、偏りのない思考を得ることで、物事をより客観的に捉える能力が向上する。
客観的に自分を捉えることで、思考がどのように自分を苦しめているのかに気づくことができる。
この気づきにより、自分を苦しめる思考のループから抜け出したり、そもそも自分を苦しめる思考を行わなくなることで、精神的健康を向上させてくれる。
思考を客観的に捉えることで、気分をかき乱す出来事にも感情的に反応しなくなっていく。
それは出来事を俯瞰的に眺めることができる自己の存在(観察する自己)を手に入れることができるからだ。
この変化は質問紙による調査だけでなく、脳画像での器質的な変化としても証明されている。
Treves et al. (2024) のレビューによると、マインドフルネス瞑想の実践者は、感情の中でも特に不安や恐れなどの不快感情を主に司る扁桃体の活動が低下することを明らかにしている。
また、ぐるぐると回り続ける自動的な思考を司るDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)も活動が低下することが示された。これらの結果からマインドフルネスの取り組みは思考や感情から距離を取って客観的な視点を獲得することに役立つといえるだろう。
日々のマインドフルネスの取り組みは私たちの脳をも変えることで、偏りのない思考を作り出す一助となってくれる。
公平な気づきの促進:本当に意味のあるものを選ぶ
マインドフルネスの実践により、自己の価値判断や思考から距離を置く視点を獲得することで、「観察する自己」を獲得し、認知的偏りに対する気づきが促進されることは先に述べた。
Shapiro et al. (2006) は、この作用のことを脱中心化(自分へのとらわれを捨てる)と類似した概念である「受け止めなおし(Reperceiving)」と定義づけ、マインドフルネスは、この「受け止めなおし」を促進し、客観的な自己評価を可能にすると述べている。
これは結果的に、我々が自身にとって何が意味があり、何を本当に大切にしているかを認識することに役立っていくとShapiroらは述べており、マインドフルネスが私たちの人生をより充実させてくれる可能性を示唆している。
つまり、マインドフルネスの実践に取り組み客観的な視点を持ち続けることは、たった一度の人生で本当に取り組むべきものへの気づきを与えてくれるといえるのではないか。
共感性の向上:持続可能な共感能力
マインドフルネスは価値判断から離れた優しい世界を作り上げる。
それは自分がここに居ても良いという、自己の存在に対する安心感を感じさせ、さらにそれは相手もそこに居ても良いという優しさとして伝播していく。
偏りのない気づきによって、私たちはより深い自己理解と、他者への共感が可能となる。
さらに、マインドフルネスの姿勢は先入観のない対人交流にも繋がっていく。
私は対人支援の場面においても、この先入観から排除された状態というものが非常に重要なことであると実感している。
Birnie et al. (2010) は、マインドフルネス実践による自己理解の深化が他者への共感性を高めることを示している。その共感性とは他者の視点に立てるようになることを意味するが、共感による個人的な苦痛はむしろ減少していることも本研究では示されている。
つまり、共感によって生じる「共感疲労」の状態を緩和することにもマインドフルネスが役に立つことを示している。
それは、持続可能な共感、無理のない共感の姿勢を育んでいく。
公平で偏りのない世界を作り上げるマインドフルネスは、自分にも他者にも優しいものである
それは突き詰めていくと、平和な世界へと繋がっていくのではないかと考える。
まとめ
マインドフルネスの本質は、価値判断や時間的概念、社会的地位等の先入観から解放され、今この瞬間に意識を向けることにある。それは、私たちの持っている思考の偏りを軽減させ、客観的な視点から、物事を新鮮な眼差しで見ることに役立つ。
そうすることで、私たちは心身ともに健康に、自分にも他者にも優しい気持ちを向けて生きることができる。さらには、その時の最善の選択をすることにも役立っていく。
それが今の時代にも必要な平和を生み出す力にもなるのではないか。
多くの人がこの気づきを得て、幸せに、平和に暮らせる世界が作られていくことを切に願いたい。
引用文献
Birnie, K., Speca, M., & Carlson, L. E. (2010). Exploring self‐compassion and empathy in the context of mindfulness‐based stress reduction (MBSR). Stress and Health, 26(5), 359-371.
Shapiro, S. L., Carlson, L. E., Astin, J. A., & Freedman, B. (2006). Mechanisms of mindfulness. Journal of Clinical Psychology, 62(3), 373-386.
Treves, I. N., Pichappan, K., Hammoud, J., Bauer, C. C., Ehmann, S., Sacchet, M. D., & Gabrieli, J. D. (2024). The Mindful Brain: A Systematic Review of the Neural Correlates of Trait Mindfulness. Journal of Cognitive Neuroscience, 36(11), 2518-2555.
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