マインドフルネスで誘惑に負けず生きるコツ|二河白道図から生き方を学ぶ

マインドフルネス

先日、『法然と極楽浄土』の後期展示を見に行った。
後期展示では『綴織當麻曼陀羅』や『早来迎』をはじめ多数の国宝、重要文化財が展示されており、まさに圧巻であった。
そして、前期・後期と拝観し、私の心に残った作品があった。それは『二河白道図』だった。
なぜ『二河白道図』に惹かれるのか。それは、マインドフルネスや気づきに溢れた生き方へのヒントが溢れていたからだ。

二河白道図とは

二河白道図は、浄土教における極楽往生を願う信心を象徴する絵画である。
この絵画は、中国の唐代の僧・善導(ぜんどう)が著した『観無量寿経疏(かんむりょうじゅきょうしょ)』に基づき、現世の苦しみから逃れ、極楽浄土へ至る道を示す比喩として描かれている。
この観無量寿経疏は浄土宗の教えの根幹となっており、法然上人が『選択本願念仏集』を書き上げ、「南無阿弥陀仏」の念仏信仰が広まるきっかけとなった重要な書物である。

二河白道図の構成

二河白道図には様々な作品があるものの、その基本構成は同じである。

上段:極楽浄土の美しい風景が描かれ、阿弥陀仏や菩薩たちが迎え入れる様子が表現されている。これは、往生を遂げた者が到達する理想郷を示すとされる。
中段:中央には白道(白い道)が描かれ、その両側には火の河と水の河が広がっている。火の河は怒りや憎しみを象徴し、水の河は貪欲や執着を表している。この白道は、極楽往生を願う清浄な心を象徴し、信仰心の大切さを強調するものとなっている。また、この白道はとても細く、容易に両側の河に落ちてしまうことも伝えている。
下段:現世の苦しみや誘惑が描かれ、白道を渡るように説得する釈尊やその弟子たちの姿も描かれている。群賊や悪獣が行者を襲おうとする様子があり、これらは人間の煩悩や邪見を象徴している。

意義と歴史的価値

二河白道図は浄土宗の教えを視覚的に表現するための重要な手段として、鎌倉時代以降広く制作された。この図は、信仰者に対して極楽往生の道を示し、信心を励ます役割を果たしてきた。
歴史的には、法然や親鸞といった浄土教の重要な人物たちがこの比喩を引用し、浄土の教えを広めるために利用した。これにより、二河白道図は浄土教の象徴的な絵画としての地位を確立していった。

現代社会は誘惑に溢れている

二河白道図の下段には人々を誘惑する諸悪が描かれる。また、中段の白道を渡っている最中にも、感情の誘惑が描かれ、極楽に人々を行かせまいとする様子が描かれている。
これは、現代社会でも同じではないだろうか。
我々の生きる社会は誘惑で溢れかえっている。
正しく生きるための気づきに溢れた人生にも、罠はたくさん仕掛けられている。
時として私たちは安易な思考や行動をとってしまうことがある。
それは人間として生きている以上、仕方のないことだ。我々の意思は想像以上に弱い。
どんなに修行をしても、思考はコントロールできない。
それでも、私たちはいつでも「今この瞬間」に戻り、最善の行動を取るができるというのも事実だ。

中道の大切さ

二河白道図を見て気が付くのは、白道が中央を分ける形で描かれていることだ。
これは仏教の重要な教えである「中道」の精神を表現しているのではないかと私は考えている。
私たちの思考や行動は極端な方向に向かいやすい。だが、適切な気づきを向けることで偏りなく生きることに繋がる。
白道を渡るということはまさしく、偏りのない世界に生きるということ。それはマインドフルネスによる気づきとも深く関連しているといえる。

仏の教えを広めるための仏教美術

二河白道図のような仏教美術は、仏の教えを広く人に伝える役目も担っている。
法然や親鸞は「南無阿弥陀仏」の念仏のみで救われると説き、法然は自身が美術品の制作に関わることはなかったようだが、弟子たちが仏教の理解を深めるために仏教美術を制作することには寛容だった。
そうして、二河白道図をはじめとした浄土宗の仏教美術が生まれ、現代にもその教えは残っていった。
真言宗の開祖、弘法大師空海も、「絶対的な真理は現象界の物を超えたものだが、物を通じて初めて真理を悟ることができる」という言葉を残したように、仏教美術は仏の世界の理解を促してくれるものである。仏の世界を表現した仏教美術は今も多くの人を惹きつける。
今日まで仏の教えが広く伝わっている背景にはこうした仏教美術の存在が寄与しているといっても過言ではない。

マインドフルネスを仏教絵画から学ぶ

マインドフルネスで意識を向ける「今この瞬間」は価値判断から離れた優しい世界。まさしく極楽だ。
様々な誘惑を振り払い、今この瞬間に気づきを向ける。
それは白道を渡るのと同じ。
細く険しい道では、様々な感情や思考が誘惑してきて、常に落ちそうになるだろう。
それでも、それに屈せず白道を渡ることで、私たちは極楽にたどり着くことができる。
二河白道図に描かれた世界は、マインドフルネスの実践とも合致しているといえる。
マインドフルネスの原点回帰が叫ばれる昨今において、こうした仏教絵画からマインドフルネスの姿勢を学ぶことは、とても大切なことではないかと考える。
何世紀も時を超えて人々に気づきを与える仏教美術は、私たちの人生において大切なことを教えてくれている。

前期展示振り返りはこちら↓

マインドフルネスの原典回帰について↓

参考文献
文化遺産オンライン「二河白道図」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/148107
香雪美術館「二河白道図」
https://www.kosetsu-museum.or.jp/mikage/collection/kaiga/kaiga09/index.html
平野美術館「二河白道図」
http://www.hirano-museum.jp/niga-byakudou2.htm

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